刻刻Ⅲ 坂本太郎展
2011/10/1 (土)〜10月23(日)
開催時間:12:00 - 19:00
休廊日:月曜日・火曜日(ただし10/10[月・祝]は開廊)
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2011年10月15日(土)
ギャラリートーク│15:00-16:30│参加料:一般500円、会員無料
レセプション│17:00-19:00│参加自由
左:「Voice from the ocean」
2011
遥かな時間と今この一刻(ひととき)
坂本太郎の作品に初めて出会ったのは「森へ―to the Forest―」と題した2007年の個展だったが、私にとってその夜の記憶は、展覧会を見たというよりも、まさに夢の中の森で神秘的な体験をしてきたかのような感覚を帯びている。
その体験をもたらしてくれた作品《森の音》(2005年)は、直径80㎝、長さ3.5mの木製円筒が2本、1mほどの間を空けて一直線上に宙吊りされたものだった。実際には桶のように木材が組まれているらしいが、巨木の幹をくり抜いたかに見える姿に彫り上げられ、小さなこぶや節穴も形作られている。そして内外にびっしりと刻まれたノミ跡は骨灰や金属粉の着色で生々しさを消され、白っぽく光る表面は月の光に照らされた化石を思わせた。作品タイトルからも私の気持ちは森の中に導かれ、木々の葉や草のそよぎ、様々な生きものたちのささやきなどが円筒の空洞に響いている様子を想ったが、筒の端から中を覗いていると、向こう側の円筒は遠く異世界に通じているようにも感じた。2本が向き合う開口部はわずかにラッパ状に広がっていて、冥界の霊たちの呟きを糸電話のようにもう一方に伝えているのかもしれないとも想像した。
包容力と広がりのある《森の音》の静けさに対して、《扉Ⅱ》(2005年)は人を拒否するかのような沈黙を纏っていた。高さ240㎝、木製ながら金属粉で黒光りするその物体は、各人が開かねばならない閉じた扉のようだった。ストーン・サークルやオベリスクなども連想させるが、大男の背中のような肉体や、この物体に宿る意志も感じた。
その後の作品、鯨のような形態に古代中国の雷文に似た文様が刻まれた《森の舟》(2006)や、滴り落ちた月光が水銀と化したかのような《月読》(2007)なども、現代の私たち一人ひとりのための祭儀や呪術の装置のように感じられた。坂本の初期、1990年代の人物像では強い感情で筋肉を強ばらせた一瞬の表情や皮膚感など、非彫刻的ともいえる刹那的な要素に敢えて挑戦していたが、そこで表現しきれないものへの思索の深まりが作品を変化させてきたのだろう。1997年の個展について「限られた生の中で大きな自然や宇宙的な時間に思いを馳せ根源を問うかのよう」と書いたことがあるのだが、あらためて考えると、その時間は天文学的な長さではなく、私たちの身体感覚や想像力が及ぶ時間のようで、それだけ切実な問いかけがなされていたといえるだろう。2009年の個展「森の刻」では鳥の翼や木の根など生命の動きを感じさせるうねりが形にされ、2010年の「刻刻」では水流の跡を残した岩石のような《月の海》と人の手の形の彫刻とが対比されていた。
現在生きている私たちは時間の最先端に位置しているわけではなく、過去と未来の間にあり、生命の連鎖の中でもその中途に存在している、といった意識が坂本にあるのだと思う。今年アメリカとメキシコで制作された《サークル・オブ・ライフ》で円環状に並べられた筒の形はおそらく脊椎を象ったものなのだろう。時計の目盛りと同じ12個のパーツのうち11個は石膏、1つだけが木製で、白い骨や化石の中に生者が挟まれている。直径60㎝、長さ90㎝の大きなパーツが3つ並ぶ《Voice from the ocean》では、脊椎の三つ又の突起が背びれ・胸びれ状になり、シャチやイルカの三世代が悠々と泳いでいるかのようだ。
遥かな時間の中で今この一刻を刻みつける坂本の制作から、ますます眼が離せない。
深山 孝彰(愛知県美術館主任学芸員)
上:「森の音」
2005
作家略歴
1970年 埼玉県生まれ
1997年 愛知県立芸術大学美術学部美術科彫刻専攻卒業
1999年 愛知県立芸術大学大学院美術学部美術研究科彫刻専攻修了
2000年 愛知県立芸術大学修士課程修了
■主な個展
1999年 ギャラリー妙(名古屋)
2000年 ギャラリーSOL(東京)
2001年 フタバ画廊(東京)/ 2002年、2004年、2008年
2003年 小野画廊京橋(東京)
2003年 作品展示シンポジウム(東京)
2004年 小島びじゅつ室(東京)/ 2009年
2005年 メタルアートミュージアム(千葉)
2005年 ギャラリーアートポイント(東京)
2006年 ギャラリー坂巻(東京)
2007年 GALLERY IDF(名古屋)/2008年, 2009年, 2010年
2007年 中京大学Cスクエア(名古屋)
2007年 Hilton Nagoya Art and Dine Seasons(名古屋)
2009年 イナガキコスミックギャラリー(愛知)
2009年 ギャラリー山口(東京)
2011年 RED MILL gallery (アメリカ・バーモント州)
■賞歴
1997年 国際瀧富士美術賞
1997年 愛知県立芸術大学美術学部卒業制作展 桑原賞
1999年 愛知県立芸術大学大学院修了制作展 買上賞
2002年 愛知教育文化財団 第13回助成賞
2006年 ドイツ国際木彫シンポジウム「FLUR2006」一等賞
2009年 富嶽ビエンナーレ 入選
2010年 VSC アジアンアーティストフェローシップ winner
■パブリックコレクション
「水源」愛知県立芸術大学
「まなざし」・「UBUSUNA」笠松刑務所
「Cocoon of Forest」FLUR(ドイツ国際木彫シンポジウム), エアルバッハ, ドイツ
「The Voice from the Ocean」バーモントスタジオセンター アメリカ
